風水では都市や住居(生者の居住空間)を「陽宅(ようたく)」、 墳墓(死者の居住空間)を「陰宅(いんたく)」と呼んで区別している。
まず隠宅がありきで、隠宅が良ければ死者が永く幸を受け、その結果、陽宅の生者はその子孫繁栄すると考える。
陰宅を正しい位置に設置すると、陰宅から流れる気が陽宅を栄えさせる。

本来なら隠宅にこそ、「穴」(いわゆるパワースポット)を持ってくるべきであるが、現代の大都会や日本では「穴」だからと言ってもどこでも勝手に墓地を作れるわけでは無いので、陽宅風水の方を重視せざるを得ない。

陰宅風水は『葬書』において理論化され、のちに陽宅風水にも大きな影響を与えるようになった。

「地理=巒頭(らんとう)」において山脈(風水では「龍脈」と言う)の「気」を受け継いで集中する「穴」の位置が重要視されるように、陰宅風水においては先祖の墓が先祖代々の「気」を受け継ぐ「穴」とされ、陽宅風水では、住宅を建てる場所選びと、住宅の形態の2つにおいて吉凶判断を行う。
場所選びで重要なことは「生気」が集まる地かどうかで、地質・水流・周囲の建物・遠方の山脈などから総合判断を行う。

住宅の形態で重要なことは、自分に必要な「生気」を取りこんで蓄えることにあり、方位が重要な意味を持つ。
家屋の位置・塀や壁・樹木・屋根型・門の向きや形態・それぞれの造営物の寸法・道路と建物との関係などから、総合的に吉凶の判断を行う。

特に大切なのが建築の前段階にあり、風水の専門家は「羅盤」(方位盤)を用いて、土地の造成、配置、構図、間取りなどの吉凶を判断し、建築を指導する。
その際、住宅の方位判断の中で、最も重要とされるのは「水口」と呼ばれるもので、これは狭義には水の流出口、つまり井戸や湧き水で、広義には「生気」の流出口、つまり取りこんだ生気を上手に流すための出口である。

陽宅風水で重要なことは、山脈に囲まれた立地条件と街道や水運の便である。
では陽宅風水における、住宅を建てる場所選びにおいて、吉方位を判断する方法は、四方(東・南・西・北)、五行(木・火・土・金・水)、七政(貧・巨・腺・文・廉・武・破)、九星(一白・二黒・三碧・四緑・五黄・六白・七赤・八白・九紫)などがある。


中でもよく知られているのが、四方(東・南・西・北)の方位基準である。

中国における都市や住宅の最も理想的な方位配置といえば、「坐北向南(ざぼくこうなん)」つまり北を背にして南を向くことであり、これに「葬山面水(そうさんめんすい)」山にもたれて水に面するという地形が得られれば、それは理想郷にも等しい。

ちなみに京都もまさしく、この吉相をしている。
いわゆる、前=朱雀=南、後=玄武=北、左=青龍=東、右=白虎=西の、四神相応の方位配置である。

陽宅と陰宅

住宅の形態において、吉凶判断で重要な対象となっているのが門である。
特に道路と門の位置関係が大切で、道路が門と平行して横切っているか、それとも門前から直角に伸びているかなどで吉凶が左右され、大通りに面した門は「吉利生財(きちりしょうざい)」と言って金持ちの相とされた。

また「門前に水があれば、財源は豊かになる」と言われているため、多くの民家では、門の前に穴を掘って池を作り、吉相を作ろうとしたのである。

他に、家屋が真南を向いていれば「人丁興旺(じんちょうこうおう)」と言って、一族の中から出世する優秀な男子が生まれる可能性があるとされた。
ゆえに多くの住宅は、北を背にして南に向いて建てられていた。
これは日当たりの良さや通風が確保できるので、住環境的にも良好であった。

このように中国では、住宅のあらゆる部分に陽宅風水が取り入れられてきたわけだが、自分の家のためだけでなく、他人の家の風水を破壊しないようにするのも、大事なこととされている。

 自分の家を吉相にしようと、一軒だけ何階建てにもなるような高い家を建てれば、近隣に風水面での悪影響を与えてしまう可能性がある。
日本でも日照や通風で近隣トラブルが起きることがあるが、中国ではそれに加えて、風水でのトラブルを避ける配慮が必要なのである。